銅代謝
銅・Cu参照
原因
遺伝性:Menkes病
摂取不足:低栄養・神経性食思不振症・ベジタリアン・経腸栄養や経静脈栄養への依存
需要増大:妊娠・授乳・未熟児・乳幼児
吸収障害:Crohn病・潰瘍性大腸炎・セリアック病・肥満手術後・上部消化管手術後・慢性下痢・蛋白漏出性胃腸症・短腸症候群
薬剤:亜鉛・鉄剤
排泄増加:高度熱傷・腎代替療法
- 腸管細胞に金属キレート蛋白であるメタロチオネインが誘導される。メタロチオネインは金属の中でも銅と優位に結合するため、食物の成分として消化管に入った銅は腸管細胞のメタロチオネインと結合してトラップされる。メタロチオネインと結合した銅は腸管細胞の脱落によって便中へ排泄される。
- 食物(カキ)・サプリメント・薬剤の過剰摂取。
- 亜鉛はWilson病の治療として用いられる。
症候
血液
貧血・白血球減少(好中球↓が多い)・汎血球減少を呈する。
貧血
フェロキシダーゼ酵素活性が損なわれることで、ヘモグロビン合成障害が起こる。
小球性・正球性・大球性のいずれにもなりうる。
骨髄検査で異型赤芽球(環状鉄芽球・核辺縁不整・巨大多分葉)がみられ、骨髄異形成症候群と類似する。銅欠乏に特徴的な所見として、赤芽球の細胞質空洞化がある。
神経
てんかん・発達遅延
銅は胎児期の神経系の発達・機能に必要であり、銅欠乏により神経発達障害・神経変性を引き起こす。
脊髄症
後天性銅欠乏症における神経症状として最も多い。
臨床経過・画像所見から、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症と類似する。
典型的には、感覚性失調に起因する歩行障害と下肢痙性によって発症する。
病状進行により、上肢の症状や膀胱直腸障害が出現する。
末梢神経障害
腱反射の減弱・消失と手袋靴下型の感覚障害
神経伝導検査:遠位優位・運動感覚性・軸索型の障害
視神経症
片側性。
銅補充によっても改善はしないが、進行抑制にはなる。
画像所見:脊髄MRI
頚髄・胸髄の後索に逆V字のT2WI高信号病変がみられることが特徴的。

*J Neurol. 2010;257(6):869-81.

*Spine J. 2024;24(11):2026-2034.
評価
血清銅・セルロプラスミンはいずれも低下する。
セルロプラスミンは炎症時に増加する急性期蛋白であるため、炎症併存時には血清銅濃度の上昇を引き起こし、銅欠乏をマスクする。
他に、亜鉛・ビタミンB12・葉酸・鉄などを測定する。

*Nutr Clin Pract. 2019;34(4):504-513.
治療
銅補充
- 基本的には経口補充
-
2mg/日を目安に、適宜調整する。
日本人の食事摂取基準(2025年)での耐容上限量は7mg/日。
- 欠乏・吸収障害が重度であれば経静脈的補充も検討
-
例)2-4mg/日を経静脈的に6日間→3-8mg/日を経口で血清銅が正常化するまで
銅含有量まとめ
食品

*Wilson病診療ガイドライン2015
- 経腸栄養剤
-
アミノレバンEN配合散:硫酸銅 0.515mg(銅 0.2mg)/1包(50g)
エレンタール配合内用剤:硫酸銅 0.82mg(銅 0.325mg)/1本(80g)
エネーボ配合経腸用液:硫酸銅 1.9mg(銅 0.75mg)/1缶(250mL)
エンシュア・リキッド:硫酸銅 0.98mg(銅 0.388mg)/1缶(250mL)
- 微量元素輸液製剤
-
エレメンミック注:硫酸銅 1.248mg(銅 0.317mg)
亜鉛の中止
亜鉛の過剰摂取が原因であれば、それを中止するだけで十分な場合がある。
ただし最初は少量の銅補充を併用する。
予後
血液異常:可逆的であり、4-12週間で改善がみられる。
神経障害:部分的に可逆的であるが、一部は後遺症として残存する可能性あり。治療により病状の悪化はなくなる。
引用・参考文献
J Neurol. 2010;257(6):869-81.
Spine J. 2024;24(11):2026-2034.
Nutr Clin Pract. 2019;34(4):504-513.
Ann Hematol. 2018;97(9):1527-1534.
Wilson病ガイドライン2015