脳卒中治療ガイドライン まとめ

目次

参考

脳卒中治療ガイドライン2021 改訂2025

2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023年9月追補

経皮経管的脳血栓回収機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月

Stroke. 2026;57(8):e316-e436. (AHA/ASAによる急性虚血性脳卒中ガイドライン 2026年)

脳卒中発症予防

高血圧

降圧目標

75歳未満、冠動脈疾患、CKD(蛋白尿陽性)、糖尿病、抗血栓薬服用中:130/80mmHg未満

75歳以上、両側頸動脈狭窄や主幹動脈閉塞、CKD(蛋白尿陰性):140/90mmHg未満

糖尿病

成人2型糖尿病における血糖コントロールおよび心血管イベントの抑制に、メトホルミンは第一選択薬として妥当である。

さらに血糖コントロール不良な場合には、GLP-1作動薬またはSGLT-2阻害薬の投与は妥当である。

脂質異常症

LDL-コレステロールをターゲットとした、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与が勧められる。

スタチンの効果が不十分な場合、エゼチミブやPCSK9阻害薬の併用は妥当である。

高トリグリセライド血症に対する薬物療法の脳卒中予防効果は、有効性が確立していない。

飲酒・喫煙

脳卒中発症予防のためには、大量の飲酒を避けること、禁煙が勧められる。

心疾患

非弁膜症性心房細動(NVAF)による心原性脳塞栓症の一次予防には、CHADS2スコアに応じてDOAC・ワルファリンの投与を行う。

弁膜症性心房細動(中等度から重度の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動、機械弁置換術後の心房細動)では、ワルファリン(PT-INR 2.0~3.0)の投与が勧められるが、DOACは勧められない。心房細動を伴う左心系の生体弁置換術後の患者では、ワルファリンの代わりにDOAC投与を考慮しても良い。

脳卒中のリスクが高いNVAF患者で出血の危険性が高い場合は、長期的抗凝固療法の代替として左心耳閉鎖システムによる治療を考慮しても良い。心房細動を合併した心疾患の手術時には、本来の手術に左心耳閉鎖術を追加することは妥当である。

虚血性心疾患合併心房細動ではPCI施行後の時期に合わせて、DOACをベースに抗血小板薬の併用が勧められる。慢性期の安定冠動脈疾患を有する心房細動患者には抗凝固薬単独療法が勧められる。

心房細動に対する発症早期からのリズムコントロールは、心血管イベントおよび脳梗塞の予防の点から妥当である。

洞調律の心不全患者において心血管イベントの抑制のために経口抗凝固薬の投与は科学的な根拠がなく勧められない。

脳卒中の一次予防としての経皮的卵円孔開存閉鎖術には科学的な根拠がなく、勧められない。

その他

脳卒中の予防のため、肥満の改善、睡眠時無呼吸症候群の治療を考慮しても良い。症候性末梢動脈疾患に対して脳卒中予防のために抗血小板薬を投与することは妥当である。

ヘマトクリット高値は脳梗塞のリスク因子であり、真性多血症、二次性多血症などを鑑別し、原因に応じた治療を行うことが妥当である。

凝固・線溶系の異常は脳梗塞、脳出血のリスク因子であり単独でも発症しうるため、原因となる遺伝子疾患、血栓形成疾患、感染症、腫瘍性疾患を鑑別し、原因に応じた治療を行うことが妥当である。

脳卒中急性期

血圧管理

脳梗塞急性期の高血圧に降圧は勧められない。収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や、大動脈解離、急性心筋梗塞、心不全、腎不全などを合併している場合に限り、慎重な降圧を行うことを考慮しても良い。

血栓溶解療法を予定する患者で収縮期血圧185mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上の場合と、血栓溶解療法施行後24時間以内の患者において収縮期血圧180mmHgまたは拡張期血圧105mmHgを超えた場合、降圧療法が勧められる。

機械的血栓回収療法を施行する場合、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には収縮期血圧180mmHg以下に速やかな降圧を行うことは妥当である。一方、血栓回収中および回収後には収縮期血圧140mmHg以下の過度な血圧低下は避けるよう勧められる。

神経症状が安定している高血圧合併症例では、発症前から用いている降圧薬を脳卒中発症後24時間以降に再開することを考慮しても良い。

栄養

意識障害・嚥下障害のある患者、状態の不安定な患者では禁食にし、補液を行うことが勧められる。

低栄養状態にある患者や褥瘡のリスクが高い患者では、十分なカロリーの高蛋白食が妥当である。栄養状態が良好な患者への高カロリー高蛋白食は勧められない。

飲食や経口服薬を開始する前には、嚥下機能を評価するよう勧められる。ベッドサイドでの簡便なスクリーニング検査としては水飲みテストが有用であり、精密な検査が必要な場合には嚥下造影検査や内視鏡検査が妥当である。

脳卒中急性期には高血糖を是正し、180mg/dL未満に保つことを考慮しても良い。

体位

分泌物による気道閉塞や誤嚥の危険性のある場合、頭蓋内圧亢進がある場合は、15~30度の頭位挙上を考慮しても良い。

脳卒中入院後急性期に一律に頭部を水平位に保つことの有効性は確立していない。

症状が安定している軽症脳梗塞で頭蓋内血管に狭窄のない場合には、発症翌日より座位をとることを考慮しても良い。

合併症予防

上部消化管出血:高齢や重症の脳卒中患者、アスピリンやDOACなどの抗血栓薬を投与している患者では上部消化管出血のリスクが高く、誤嚥性肺炎の可能性を配慮した上での抗胃潰瘍薬(PPIまたはH2受容体拮抗薬)の予防的投与は妥当である。

痙攣:高齢者の皮質下出血では急性期の痙攣発作は予後不良であり、抗てんかん薬による予防的治療を考慮しても良い。急性期に症候性発作に対して投与が開始された抗てんかん薬は、その後の発作の有無や脳波異常を評価しながら、漸減中止を検討することが妥当である。

深部静脈血栓症:予防のために早期離床を行うよう勧められる。早期離床が困難な場合は、理学療法(下肢の挙上、マッサージ、自動的および他動的な足関節運動)を実施するように勧められる。体動困難な患者に対して間欠的空気圧迫法の施行が勧められる。段階的弾性ストッキングは深部静脈血栓症の予防効果はなく行うべきではない。抗凝固療法(未分画ヘパリン皮下注、低分子ヘパリン)を考慮して良いが、原疾患に対する抗血栓療法に追加する場合は出血性梗塞や脳出血の発症リスクを高めるため、有効性は確立していない。脳出血、くも膜下出血、重篤な出血性梗塞では出血を助長する可能性があるため、抗凝固療法以外の予防法が妥当である。

脳梗塞急性期

経静脈的血栓溶解療法

rt-PA(アルテプラーゼ)の静脈内投与(0.6mg/kg)は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で慎重に適応判断された患者に対して勧められる。

患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラーゼ静注療法を始めることが勧められる。

発症時刻が不明な時、頭部MRI拡散強調画像の虚血性変化がFLAIR画像で明瞭でない場合には、アルテプラーゼ静注療法を行うことを考慮しても良い。

アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬(レカネマブなど)の投与を受けている患者に対する静注血栓溶解療法は、投与前のMRI所見を確認し通常より慎重な検討の上で行うことが必要である。

経動脈的血行再建療法

発症早期の脳梗塞では、①内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞、②発症前のmRSスコアが0または1、③頭部CTまたはMRI拡散強調画像でASPECTSが6点以上、④NIHSSスコアが6以上、⑤年齢18歳以上、の全てを満たす患者に対して、rt-PA静注療法を含む内科的治療に追加して、発症から6時間以内に(可及的速やかに)ステントリトリーバーまたは血栓吸引カテーテルを用いた機械的血栓回収療法を開始することが勧められる。

最終健常確認時刻から6時間を超えた内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞による脳梗塞では、神経徴候と画像診断に基づいて救済可能領域が十分にあると判定された患者に対して、最終健常確認時刻から24時間以内に機械的血栓回収療法を開始することが勧められる。

内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞が原因で、頭部CTまたはMRI拡散強調画像でASPECTSが3~5点の広範囲虚血領域を有し、発症または最終健常確認時刻から24時間以内の脳梗塞患者に対して、機械的血栓回収療法を行うことは妥当である。また、MRI拡散強調画像でASPECTSが3点未満かつ発症から6.5時間以内の脳梗塞患者に対して、同療法を行うことを考慮しても良い。

前方循環系の脳主幹動脈の急性閉塞による脳梗塞では、NIHSSスコアが6未満の軽症例、中大脳動脈M2部閉塞例、発症前mRSスコアが2以上の症例に対して、発症6時間以内に機械的血栓回収療法を開始することを考慮しても良い。

脳底動脈の急性閉塞による脳梗塞では、①発症前のmRSスコアが0~2、②NIHSSスコアが10以上、③Posterior circulation-ASPECTS (PC-ASPECTS)が6点以上の患者に対して、発症または最終健常確認時刻から24時間以内に機械的血栓回収療法を開始することは妥当である。

発症から2時間20分以降の内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞による脳梗塞では、機械的血栓回収療法を迅速に行える施設において、アルテプラーゼ静注療法を行わずに、機械的血栓回収療法を開始することを考慮しても良い。

中大脳動脈の急性塞栓性閉塞による脳梗塞では、来院時の症候が中等度から重度で、CT上梗塞巣を認めないか軽微な梗塞にとどまる症例に対して、発症から6時間以内に経動脈的な選択的局所血栓溶解療法を行うことは妥当である。

頭蓋内脳動脈又は頚部頸動脈の急性閉塞や高度狭窄による脳梗塞急性期では、経動脈的な血管形成術やステント留置術を行うことは、有効性が確立していない。

抗血小板療法

アスピリン160~300mg/日の経口投与は、発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の治療法として勧められる。

抗血小板薬2剤併用(アスピリンとクロピドグレル)投与は、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の、亜急性期(1か月以内を目安)までの治療法として勧められる。

シロスタゾール200mg/日の単独投与や、低用量アスピリンとの2剤併用投与は、発症早期(48時間以内)の非心原性脳梗塞患者の治療法として考慮しても良い。

オザグレルナトリウム160mg/日の点滴投与は、非心原性脳梗塞患者の急性期治療として考慮しても良い。

脳梗塞軽症患者の超急性期治療として、適応を慎重に検討した上で、アルテプラーゼの投与の代わりに抗血小板薬(単剤もしくは2剤併用)投与を考慮しても良い。

抗凝固療法

発症48時間以内の非心原性・非ラクナ梗塞に、選択的トロンビン阻害薬のアルガトロバン静脈投与することは妥当である。

脳梗塞急性期に、未分画ヘパリン、低分子ヘパリン、ヘパリノイドを使用することを考慮しても良い。

非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮して発症早期(例えば発症後4日以内)からDOACを投与することは妥当である。

抗脳浮腫療法

高張グリセロール(10%)静脈内投与は、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞のような頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に行うことを考慮しても良い。

マンニトール(20%)は脳梗塞急性期に使用することを考慮しても良い。

脳保護薬

脳保護作用が期待されるエダラボンは、急性期脳梗塞患者の治療に用いることは妥当である。

本邦の市販後調査にて、感染症の合併、高度な意識障害(JCS 100以上)の存在、脱水状態では、致命的な転帰をたどったり、腎機能障害・肝機能障害・血液障害など複数の臓器障害が同時に発現したりする症例が報告されており、投与中の腎機能、肝機能、血液検査の頻回な実施が必要とされている。

脂質異常症治療

脳梗塞急性期にはHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与開始を考慮しても良い。脳梗塞発症前にスタチンを投与されていた場合に、脳梗塞急性期にスタチンの内服を中止することは勧められない。

開頭外減圧術

中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞において、①年齢が18~60歳、②NIHSSスコアが15を超える症例、③NIHSSスコアの1aが1以上である症例、④CTにて中大脳動脈領域の脳梗塞が少なくとも50%以上あるか、拡散強調画像にて脳梗塞の範囲が145cm3を超える症例、⑤発症48時間以内の症例、に硬膜形成を伴う外減圧術が勧められる。

60歳以上であるがそれ以外は外減圧術適応の基準を満たす症例に関しては、若年者と比較して機能予後が悪いことを踏まえたうえで、外減圧術を行うことを考慮しても良い。

小脳梗塞においては、水頭症による中等度の意識障害がある症例に対しては脳室ドレナージを行うことを考慮しても良い。脳幹部圧迫による昏睡など重度の意識障害をきたしている症例に対して開頭外減圧術を行うことは妥当である。

脳梗塞慢性期

抗血小板療法

非心原性脳梗塞の再発予防には、抗血小板薬の投与を行うよう勧められる。

非心原性脳梗塞の再発予防に有効な抗血小板薬は、アスピリン75~100mg/日、クロピドグレル75mg/日、シロスタゾール200mg/日、プラスグレル3.75mg/日である。非心原性脳梗塞の中でもラクナ梗塞においては、抗血小板薬の中でもシロスタゾール投与を考慮しても良い。

長期の抗血小板薬2剤併用は、単剤と比較して有意な脳梗塞再発抑制効果は実証されておらず、むしろ出血性合併症を増加させるため、勧められない。ただし、頚部・頭蓋内動脈の狭窄・閉塞や血管危険因子を複数有する非心原性脳梗塞には、シロスタゾールを含む抗血小板薬2剤併用は妥当である。

出血時の対処が容易な処置・小手術(抜歯、白内障手術など)の施行時は、アスピリンの内服を続行することが勧められる。また、その他の抗血小板薬の内服を継続することは妥当である。出血高危険度の消化管内視鏡治療の場合は、血栓塞栓症の発症リスクが高い症例では、アスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮しても良い。

頚動脈内膜剥離術(CEA : carotid endarterectomy)

症候性頚動脈高度狭窄(70~99%狭窄、NASCET法)では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、CEAを行うことが勧められる。狭窄末梢が虚脱した高度狭窄(near occlusion)には、CEAを行うことを考慮しても良い。

症候性頚動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、CEAを行うことが妥当である。

内頚動脈狭窄症において、血行再建術を考慮すべき高齢者に対しては、頚動脈ステント留置術よりもCEAを行うことが妥当である。

症候性頚動脈狭窄に対して症状発症後早期にCEAを行うことは妥当である。

経動脈的血行再建療法

症候性内頚動脈高度狭窄では、CEAの危険因子を持つ症例に対して、抗血小板療法を含む最良の内科的に加えて、頸動脈ステント留置術(CAS : carotid artery stenting)を行うことは妥当である。CEAの危険因子を持たない症例に対して、CASを行うことを考慮しても良い。

○CEAの危険因子(少なくとも1つが該当)

  • 心臓疾患(うっ血性心不全、冠動脈疾患、開胸手術が必要、など)
  • 重篤な呼吸器疾患
  • 対側頚動脈閉塞
  • 対側喉頭神経麻痺
  • 頚部直達手術、または頚部放射線治療の既往
  • CEA再狭窄例

症候性の頭蓋内動脈狭窄症に対して、経皮的血管形成術とステント留置術を行うことの有効性は確立していない。症候性の頭蓋外椎骨動脈狭窄症に対して、経皮的血管形成術とステント留置術(ステントは保険適用外)を行うことの有効性は確立していない。

EC-ICバイパス術

症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞/狭窄症によるTIAあるいはminor strokeを起こした症例に対して、発症時期、年齢、mRS、定量的脳循環測定結果から適応を慎重に考慮したうえで、EC-IC (extracranial-intracranial)バイパスを行うことは妥当である。

抗凝固療法

※脳卒中発症予防・心疾患を参照。

NVAFを伴う脳梗塞またはTIA患者の再発予防には、経口抗凝固療法(DOACもしくはワルファリン)を行うよう勧められる。

NVAFに対するワルファリン療法は、70歳未満ではPT-INR 2.0~3.0が勧められ、70歳以上ではPT-INR 1.6~2.6が妥当である。

機械弁置換術後・心房細動を伴うリウマチ性僧帽弁狭窄症の患者では、ワルファリンにより、PT-INR 2.0~3.0で維持することが勧められる。

通常の抜歯や消化管内視鏡の場合、DOACやワルファリンを休薬なく施行することは妥当である。出血高危険度の消化管内視鏡の場合、ワルファリン継続下あるいはNVAFの場合にはDOACへの一次的変更を考慮し、DOAC服用者では処置当日の朝から内服を中止、処置翌日朝より出血がないことを確認して再開することは妥当である。

脂質異常症

非心原性脳梗塞・TIAの再発予防に、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の積極的な投与が勧められる。LDL-コレステロール<100mg/dLを目標とした脂質管理が妥当である。LDL-コレステロール<70mg/dLの目標設定は、冠動脈疾患を合併している場合に虚血性脳卒中再発予防のため考慮しても良い。スタチンで脂質異常症治療中の患者において、脳卒中再発予防目的にイコサペント酸(EPA)製剤を併用することは妥当である。

塞栓源不明の脳塞栓症(ESUS : embolic stroke of undetermined source)

ESUSに対する抗血栓療法として、アスピリンを選択することは妥当である。ダビガトラン、リバーロキサバンは勧められない。高血圧治療歴がない例、脳幹を含まない後方循環器系脳梗塞にワルファリンを考慮しても良い。

奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)

卵円孔開存の関与が疑われる塞栓源不明の脳塞栓症の再発予防のための薬物療法として、抗血小板療法あるいは抗凝固療法のいずれかを実施することが妥当である。静脈血栓塞栓症を認める場合は抗凝固療法を行うよう勧められる。

60歳未満の卵円孔開存の関与が疑われる潜因性脳梗塞例に対して、経皮的卵円孔開存閉鎖術を行うことは妥当である。特に再発リスクの高い卵円孔開存(シャント量が多い、心房中隔瘤合併など)を有する場合、経皮的卵円孔開存閉鎖術が勧められる。60歳以上の症例に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の有効性は確立していない。

経皮的卵円孔開存閉鎖術施行後も抗血栓療法を継続することが妥当である。

肺動静脈瘻による奇異性脳塞栓症の再発予防に経皮的カテーテル塞栓術を行うことは妥当である。

TIA 急性期・慢性期

TIAを疑えば、可及的速やかに発症機序を評価し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始するよう勧められる。TIA後の脳梗塞発症の危険度予測と治療方針の決定には、ABCD2スコアをはじめとした予測スコアの使用が妥当である。

TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160~300mg/日の投与が勧められる。ABCD2スコア4点以上の高リスクTIA例では、急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリンとクロピドグレル)が妥当である。

急性期以後のTIAに対する治療は、脳梗塞の再発予防に準じて行うことが勧められる。

※Lancet. 2007;369(9558):283-92.

高血圧性脳出血の急性期治療

血圧の管理

脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧することは妥当である。その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い。降圧目標は治療開始24時間以内および7日間まで維持することは妥当である。

降圧療法に伴う急性腎障害を回避するためには収縮期血圧降下幅が90mmHg超の強化降圧療法は勧められない。

脳出血急性期に用いる降圧薬としてはカルシウム拮抗薬あるいは硝酸薬を選択し、血圧値に応じて投与量が調節可能な微量持続静注により安定的な降圧を行うことは妥当である。可能であれば早期に経口降圧治療に切り替えることを考慮しても良い。

脳浮腫・頭蓋内圧亢進の管理

高張グリセロール静脈内投与を、頭蓋内圧亢進を伴う脳出血急性期に行うことを考慮しても良い。マンニトール静脈内投与を、血腫や浮腫により進行性に頭蓋内圧が亢進した場合や物理的に周辺組織の圧排に随伴して臨床所見が増悪した場合に考慮しても良い。副腎皮質ホルモンは脳出血急性期の脳浮腫治療に勧められない。頭部上半身を30度挙上することを考慮しても良い。

開頭手術・神経内視鏡手術

脳出血の部位に関係なく、血腫量10mL未満の小出血又は神経学的所見が軽度な症例は手術を行わないよう勧められる。また、意識レベルが深昏睡(JCS 300)の症例に対する血腫除去術は勧められない。

脳内出血あるいは脳室内出血の外科的治療に関しては、神経内視鏡手術あるいは定位的血腫除去術を考慮しても良い。

被殻出血:神経学的所見が中等度、血腫量が31mL以上でかつ血腫による圧迫所見が高度な例では、血腫除去術を考慮しても良い。JCS 20~30程度の意識障害を伴う場合は、定位的血腫除去術を行うことは妥当であり、開頭血腫除去術や神経内視鏡手術を考慮しても良い。

視床出血:血腫除去術は勧められない。

皮質下出血:脳表からの深さが1cm以下のものでは手術を考慮しても良い。

小脳出血:最大径が3cm以上で神経学的症候が増悪している場合、または脳幹を圧迫し閉塞性水頭症を来たしている場合には、血腫除去術を行うことは妥当である。

脳幹出血:血腫除去術は勧められない。

高血圧性脳出血の慢性期治療

血圧のコントロール不良例での再発が多く、慢性期では130/80mmHg未満を降圧目標とすることは妥当である。

脳出血再発リスクが高い場合では120/80mmHg未満を降圧目標とした、より厳格な血圧管理を行うことを考慮しても良い。

脳出血再発の高リスクを評価するにあたり、microbleedsの合併、抗血栓薬の使用、年齢などを考慮することは妥当である。

高血圧以外の原因による脳出血

脳動静脈奇形

未破裂脳動静脈奇形は、外科的治療介入だけではなく症候に対する内科的治療を考慮しても良い。ただし、症例によっては、外科的治療、血管内塞栓術、放射線治療の単独または組み合わせによる治療介入を考慮しても良い。

出血脳動静脈奇形は再出血が多く、出血リスク、手術リスクを勘案し、急性期脳出血の治療を含め手術、定位放射線治療、血管内塞栓術の単独または組み合わせによる外科的治療を行うことは妥当である。

外科的手術の危険性が高く病巣が小さい場合(10mL以下または最大径3cm以下)は定位放射線治療を考慮しても良い。

Spetzler-Martin分類のgrade 1および2では外科的切除を考慮しても良い。grade 3では外科的手術または血管内塞栓術後外科的手術の併用を考慮しても良い。grade 4および5では、保存的加療を考慮しても良い。

硬膜動静脈瘻

無症候性で脳血管撮影にて脳皮質静脈への逆流を認めない硬膜動静脈瘻では、経過観察が第一選択としてMRIによる経時的検査を考慮しても良い。

症候性もしくは脳血管撮影にて脳皮質静脈への逆流を認める症例に対して、部位や血行動態に応じて血管内治療、外科的治療、定位放射線治療の単独もしくは組み合わせによる積極的治療を行うことは妥当である。

横・S状静脈洞部に血管内治療による塞栓術を行うことは妥当である。閉塞が得られない場合は外科的治療や定位放射線治療を組み合わせた治療を考慮しても良い。

海綿静脈洞部は血管内治療による塞栓術を行うことは妥当である。

前頭蓋窩、テント部、頭蓋頸椎移行部は外科的治療を行うことは妥当である。外科的治療が困難な場合には、血管内治療との組み合わせや血管内治療を行うことは妥当である。

海綿状血管腫

無症候性孤発性海綿状血管腫に対しては保存的治療を行うことが妥当であるが、アプローチが容易かつ症候非発現域に存在する病変に対しては、将来の出血予防目的での外科的切除を考慮しても良い。

症候性海綿状血管腫(出血、コントロール不良の痙攣、進行性神経症状)のうち、病変が脳幹部を含む脳表付近に存在する症例では外科的切除を考慮しても良い。

外科的切除困難な脳幹部を含む深部に存在する症候性海綿状血管腫に対し、再出血予防目的で照射線量を低く設定した定位放射線治療を考慮しても良い。

抗血栓療法に伴う脳出血

ワルファリンを服用し、PT-INRが2.0以上に延長した脳出血患者へのプロトロンビン複合体製剤の投与は妥当である。その際、PT-INRの再上昇を避けるためビタミンKを併用することは妥当である。

ダビガトラン内服中の場合、イダルシズマブを投与することは妥当である。第Ⅹa因子阻害薬(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)内服中の場合、アンデキサネットアルファを投与することは妥当である。

抗血小板薬服用中の脳出血患者に対し、血小板輸血をすることは勧められない。

未分画ヘパリン療法中に合併した脳出血では、プロタミンの投与を考慮しても良い。

血栓溶解療法中に合併した脳出血では、血液凝固異常の評価を行い、血液製剤などを用いて異常に応じた是正を考慮しても良い。

抗血栓療法中に合併した脳出血では、原則として抗血栓薬を中止する。血圧高値は収縮期血圧を140mmHg未満に降下させることを考慮しても良い。

DOAC服用中の脳出血では、内服後早期の場合には経口活性炭による吸収抑制や、輸液負荷による利尿排出の促進を考慮しても良い。

抗血栓薬服用中に合併した脳出血では、再出血のリスクを勘案して、抗血栓薬服用を再開することを考慮しても良い。

無症候性脳血管障害

無症候性脳梗塞を有する症例では、通常より積極的な降圧療法を考慮しても良い。

大脳白質病変を有する症例において、通常より積極的な降圧療法、スタチン投与を考慮しても良い。

無症候性脳出血および微小脳出血に対して症候性脳出血発症予防のため降圧治療を行うことは妥当である。無症候性脳出血および微小脳出血を伴う虚血性脳卒中例は、出血リスクと脳梗塞再発リスクを十分に検討した上で、抗血栓療法を控えることを考慮しても良い。微小脳出血を伴う脳梗塞急性期症例にrt-PA静注による血栓溶解療法や機械的血栓回収療法を行うことは妥当である。

無症候性頚動脈狭窄は脳梗塞発症の原因となるため、一次予防として動脈硬化リスクファクターの管理が勧められる。軽度から中等度の無症候性頚動脈狭窄に対しては、血行再建術は行わないよう勧められる。高度の無症候性頚動脈狭窄では、抗血小板療法、降圧療法、スタチンによる脂質低下療法を含む最良の内科的治療による効果を十分に検討し、画像診断で脳卒中高リスクと判断した症例では、CEAを考慮することは妥当である。CEAの標準・高リスク例では、CASを行うことを考慮することは妥当である。虚血性心疾患に対するバイパス術前または同時に、無症候性頚動脈狭窄症に対してCEAを行うことは勧められない。

無症候性頚動脈閉塞に対するCEA。CAS、または他の外科的血行再建術、ならびに無症候性椎骨動脈狭窄・閉塞に対する外科的血行再建術、経皮的血管形成術、ステント留置術については、勧められない。

頭蓋内の無症候性脳主幹動脈狭窄・閉塞を有する患者の脳梗塞発症予防として、動脈硬化リスクファクターの管理を行うことは妥当である。他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価したうえで、必要に応じて抗血小板療法を行うことを考慮しても良い。EC-ICバイパス術やステントを用いた血管形成術は勧められない。

その他の脳血管障害

動脈解離

虚血発症の頭蓋外動脈解離では、急性期に抗血栓療法を行うことは妥当である。抗血栓療法を行う場合、抗凝固療法と抗血小板療法いずれの選択も妥当である。

虚血発症の頭蓋内動脈解離でも、急性期に抗血栓療法(抗凝固療法または抗血小板療法)を考慮しても良い。しかし、解離部に瘤形成が明らかな場合にはくも膜下出血発症の危険性があり、抗血栓療法は勧められない。

虚血発症の脳動脈解離における抗血栓療法の継続期間は3~6か月間を考慮するが、画像所見を参考として症例ごとに検討することが妥当である。解離部の所見は時間経過とともに変化するので、可能であれば3か月ごとにCTA、MRA、脳血管撮影などで経時的に画像観察を行うことが妥当である。

血栓溶解療法は、虚血発症の頭蓋外脳動脈解離症例に対して行うことを考慮しても良い。頭蓋内脳動脈解離症例では十分な科学的根拠はなく、慎重に症例を選択する必要がある。

出血性頭蓋内動脈解離では、発症後再出血をきたすことが多く、早期の診断および治療が妥当である。外科的治療には直達手術と血管内治療がある。

もやもや病

虚血症状を呈するもやもや病に対して、頭蓋外内血行再建術を行うことは妥当である。周術期の過灌流症候群に対しては、併存する脳虚血病態を鑑みて、降圧を考慮しても良い。

虚血発症もやもや病の超急性期においては、症例ごとの出血リスクを鑑みて、rt-PAによる血栓溶解療法を考慮しても良い。

虚血発症もやもや病の内科治療として抗血小板薬の服用を考慮しても良い。

出血発症もやもや病において、虚血発作の出現に留意した上で、高血圧性脳出血と同様の降圧療法を行っても良い。特に予後不良である後方出血例に対しては、再出血率の低下を目的とした頭蓋外内血行再建術を行うことが妥当である。

脳静脈・静脈洞閉塞症

急性期において、未分画ヘパリンを用いた抗凝固療法が第一選択となる。未分画ヘパリンの代わりに低分子ヘパリンの使用を考慮しても良い。

ワルファリンによる経口抗凝固療法を少なくとも3か月以上は継続することが妥当である。

予後不良因子を有する脳静脈洞血栓症に対する血栓溶解療法および機械的血栓回収療法を行うには、十分な科学的根拠がない。

実質病変を有し脳ヘルニア徴候を認める重症例においては開頭減圧術を行うことは妥当である。

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS : reversible cerebral vasoconstriction syndrome)

原因となる薬剤を直ちに中止し、誘因となる行為を数日~数週間避けることは妥当である。

重症例では血管内治療を考慮しても良い。

脳梗塞に対して慢性期の再発予防に抗血栓療法は勧められない。

ステロイドは使用しないよう勧められる。

血管攣縮に対する拡張薬として、本邦ではニカルジピン、ベラパミル、硫酸マグネシウムが用いられることがあるが、保険適用外である。

片頭痛

前兆のある女性の片頭痛患者には禁煙が勧められる。

前兆のある女性の片頭痛患者には経口避妊薬、特にエストロゲン含有製剤は避けることが妥当である。

片頭痛の頻度が脳卒中と関連しているため、頻度が多い場合は予防療法を加味するなどして頻度の減少に努めることは妥当である。

脳アミロイド血管症

脳アミロイド血管症に関連する脳出血に対する血腫吸引術を考慮しても良い。

脳葉型出血の既往があり、脳アミロイド血管症が強く示唆される場合、合併する虚血性心血管イベントの発症リスクが著しく高ければ、脳出血のリスクが増加する可能性を十分に検討した上で、抗凝固療法や抗血小板療法を考慮しても良い。

凝固亢進状態

抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞の再発予防に、抗体価等から再発リスクを踏まえたうえで、第一選択としてアスピリンではなくワルファリンの投与を行うことは妥当である。DOACを使用するべきではない。SLE合併例では副腎皮質ステロイドの投与を考慮しても良い。

高ホモシステイン血症には、脳梗塞再発予防目的に葉酸を使用することを考慮しても良い。

先天性血栓性素因に対する脳梗塞の再発予防では、PT-INR 2.0~3.0のワルファリン療法を行うことを考慮しても良い。

Trousseau症候群(cancer associated thrombosisの一病型)に対する脳梗塞の再発予防では、原疾患の治療に加え抗凝固療法を行うことを考慮しても良い。ヘパリン、低分子ヘパリン、ヘパリノイドが再発予防に有用とされている。

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この記事を書いた人

大学病院で脳神経内科医をしています。
内科専門医・神経内科専門医を取得しました。
学生・研修医・専門医までを広く対象とした、内科・神経内科領域のまとめノートを作ります。学習や診療にお役立てください。

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