ポルフィリン症

目次

参考

ポルフィリン症診療ガイドライン2025

概要

ヘムはヘモグロビンをはじめ、ミオグロビン、シトクロムC、シトクロムP450、カタラーゼ、一酸化窒素合成酵素、ペルオキシダーゼなどを構成する生体機能の維持に重要な高分子であり、ヘムを合成する系はヘム合成経路と呼ばれる。ヘムはいくつかの種類のポルフィリン体を経て合成されることから、ポルフィリン代謝系とも呼ばれる。この系には9つの酵素が関与しており、最初のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)が律速酵素となって、ヘムの生成が制御されている。

ポルフィリン症は9つの酵素のいずれかの活性異常により、ヘム産生量の減少と同時に生体内にポルフィリン体あるいはその前駆物質が大量に生産、蓄積することによって、様々な病的症状を呈する。

9つの病型に分類され、臨床症状によって神経精神症状や消化器症状を主体とする急性ポルフィリン症と、皮膚症状を主体とする皮膚ポルフィリン症の2つに大別される。

遺伝的背景に依存するものが多いが、晩発性皮膚ポルフィリン症のように飲酒やC型肝炎など後天的因子によるものもある。

急性ポルフィリン症は発作性に神経精神症状、消化器症状を生じるが、発症には酵素の活性異常に加えて何らかの誘因(薬剤、飲酒、飢餓、月経などの性ホルモン変化、過労などのストレスなど)が関与するのが特徴。

病態

遺伝性ポルフィリン症は、ヘム合成経路の酵素異常によりポルフィリン体やその前駆体が体内に大量に産生・蓄積することで、多彩な症状を発症する希少な遺伝性疾患である。ヘムの合成には9つの酵素が関与するが、これらの酵素の活性低下もしくは活性上昇をもたらす遺伝子の病的バリアントが遺伝性ポルフィリン症の原因である。

皮膚ポルフィリン症

光線過敏症状を主体とする皮膚症状の発症機序は、皮膚組織の赤血球や線維芽細胞に集積したポルフィリン体に、表皮を透過した光線が照射されることにより生じる。光線を吸収したポルフィリン体が酸素分子をもとに活性酸素腫や過酸化脂質を発生させる。この活性酸素腫が赤血球や線維芽細胞の細胞膜を傷害するとともに、IL-1やIL-6などの炎症性サイトカイン、コラゲナーゼの増加を引き起こし、蛋白質などの生体高分子や毛細血管内皮を傷害することにより紅斑・水疱などの皮膚症状が生じると考えられている。

急性ポルフィリン症

ポルフィリン前駆体であるALAは神経毒性があるため、ALAの過剰産生・蓄積により、重度の急性腹症、吐き気、嘔吐、便秘、筋力低下、末梢神経障害、頻脈、高血圧、頭痛、意識障害などの多彩な急性神経内臓症状を呈する。また遺伝的酵素障害のみが関与しているのではなく、後天的因子(各種薬剤、サプリメント、月経・妊娠・分娩、ピル服用、感染、飢餓、ストレス、飲酒など)によりヘム合成の需要が高まると急性発作を間欠的に繰り返すのが、この疾患の最大の特徴である。

疫学

本邦では1920年から2010年までの91年間に926例のポルフィリン症が報告されている。

最も多い病型は晩発性皮膚ポルフィリン症(35.4%)、次いで赤芽球性プロトポルフィリン症(21.9%)、急性間欠性ポルフィリン症(21.4%)。肝性赤芽球性ポルフィリン症は0.6%、アミノレブリン酸脱水酵素欠損性ポルフィリン症は0.1%とまれな病型である。

日本国内の地域分布では西日本に多い傾向にある。

PCTの大部分はアルコールなどが原因の後天性である。

症状

皮膚症状、消化器症状、精神神経症状からなる3つの主症状が種々の程度に組み合わさったものとなる。皮膚症状はほぼすべてが光線過敏に起因し、多くの病型に共通した臨床症状を呈する。消化器症状や精神神経症状は急性ポルフィリン症のみでみられる症状である。

皮膚ポルフィリン症

皮膚症状は急性期と慢性期に大別される。

急性期の皮膚症状は、基本的に日光皮膚炎に類似する。重症度は病型によるが、光線曝露後に刺激感、紅斑、浮腫、水疱、びらん、痂疲、紫斑、爪甲剥離が経過とともに順次出現する。

慢性期の皮膚症状は、掻痒、瘢痕、色素沈着、色素脱出、皮膚脆弱性、油性光沢皮膚、苔癬化、稗粒腫、多毛、瘢痕性脱毛、口囲偽亀裂、強皮症様硬化、眼瞼外反、指趾離断、鼻尖耳介欠損、石灰化などである。

先天性赤芽球性ポルフィリン症(CEP)、赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)、晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)では皮膚症状が強く生じる。その程度はCEP>PCT>EPPであり、これは沈着するポルフィリンの種類によって光毒反応の程度が異なることによる。

皮膚症状そのものの予後はおおむね良好である。ただし、光線曝露の反復により鼻尖耳介欠損や指端の離断などが生じると不可逆である。

合併症として貧血や肝機能障害がみられ、肝機能障害から肝不全に進展した場合は予後不良となる。赤芽球性プロトポルフィリン症や肝性赤芽球性ポルフィリン症では発達障害や痙攣などの神経系症状も少数ではあるが報告されている。

急性ポルフィリン症

<急性発作>

4つの急性ポルフィリン症はいずれも重度の神経障害により、腹部症状(腹痛、嘔吐、便秘)、神経症状、精神症状の三徴候を特徴とする急性発作を呈する。

アミノレブリン酸脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ADP)を除く急性ポルフィリン症は疾患の浸透率が低く、遺伝因子を保有していても大半は無症候で経過する。発症例は女性に多く、発作は通常月経の開始後に始まり、閉経後はまれである。

80%以上の症例でびまん性に重篤な腹痛を認める。筋性防御や反跳痛などの腹部所見は顕著ではなく、腹部画像検査は正常を示す。内臓自律神経系の障害によって生じるが、多くが激痛であるため、急性腹症と誤診され探索的に外科的処置が行われることもまれではない。症状は数日かけて増強し、1~2週間で徐々に改善する。

神経症状は最大70%に生じ、末梢神経系、中枢神経系、自室神経系のいずれも生涯を生じうる。

  • 末梢神経障害の最も一般的な症状は、近位筋に始まり遠位筋に進行する脱力である。異常感覚やしびれなどの感覚障害は約半数にみられる。症状の進行度は様々だが、数日以内に弛緩性四肢麻痺と呼吸筋麻痺が急速に進行する症例もあり、人工呼吸器管理が必要となる場合もある。
  • 中枢神経系障害は50~75%にみられ、頭痛、不安、睡眠覚醒障害、慢性疲労症候群など軽度のものからうつ病、双極性スペクトラム、妄想、昏睡に至るまで多彩な精神状態が含まれる。痙攣発作は最大20%にみられる。他に視力障害、Babinski徴候、眼振および小脳性運動失調、PRESを呈した症例が報告されている。
  • 自律神経障害は前述の腹部症状に加えて、頻脈、高血圧を引き起こす。

検査では、25~60%で低ナトリウム血症を認める。内分泌学的にSIADHを生じており、自律神経を含めた視床下部の調節障害が原因と考えられている。

<慢性症状>

患者の大多数は、生涯に1~数回の急性発作しか経験しない。しかし、ごく一部の症例では頻繁に発作を繰り返す。

長期的なリスクとして、肝癌を含む慢性肝疾患および腎疾患の発症が報告されている。

診断

皮膚ポルフィリン症

急性ポルフィリン症

○スクリーニング

急性発作時に尿中ALA、PBG、クレアチニンの測定を行う。患者がヘムで治療されていない限り、尿中ALA、PBGは急性発作後の数日間は上昇し続ける。

○生化学検査

スクリーニング検査で急性ポルフィリン症と診断されたならば、第2段階として尿、糞便、赤血球中のポルフィリン体を測定し、病型診断を試みる。検体はできる限り急性発作期でヘムの治療が行われる前に採取する。

○遺伝学的検査

生化学検査で急性ポルフィリン症と診断された患者に対して、病型を確定診断するために行う。かずさDNA研究所で検査を受託している。

遺伝子変異保因者の多くは生涯にわたり症候性発作を経験しない。そのため家系内に遺伝子変異の潜在性未発症者が存在する可能性がある。患者の病原性遺伝子変異が同定されたら、家族に遺伝カウンセリングで情報提供したうえで、未発症のうちに遺伝子検査を行うことが推奨される。潜在性未発症者はライフスタイルで誘因を回避し、特定の薬の潜在的リスクを事前に知ることができる。

○鑑別疾患

鉛中毒:過剰な鉛はADPで欠損するアミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)の機能を阻害する。そのため、ADPと同様に生化学検査では尿中のALAが単独で高値を示し、PBGは正常範囲を示す。症状は数週間以上かけて人格変化、頭痛、腹痛、嘔吐、便秘、脱力、足のしびれや感覚消失などを生じるが、伸筋麻痺による下垂手の末梢神経症状が特徴的である。血中の鉛濃度測定で鑑別可能。

病型別ポルフィリン体・前駆体プロフィール

治療

皮膚ポルフィリン症

皮膚症状のほぼすべてが光線過敏に起因し、光線曝露がなければ皮膚症状は生じない。そのため、いずれの病型においても遮光指導が予防的治療の根幹となる。

その他に各病型の治療・予防を考慮する。

急性ポルフィリン症

急性発作に対する治療・予防については4病型で共通。

○治療

  1. 誘因回避:遺伝的素因とともに誘因とされる後天性因子が存在する。発作時に誘因が持続・残存していれば、まず誘因を除去することが必要である。
  2. ヘム:経静脈的ヘミン投与は急性発作に最も有効と考えられる。本邦で用いられているのはheme arginate(商品名:ノーモサング)。投与されたヘミンは肝臓に取り込まれ、減少しているヘム・プールが補充されることにより、律速段階となっているδ-アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)にネガティブフィードバックをかけ、ポルフィリン前駆体の生成を抑制する。投与方法:3~4mg/kg/day(保険適用:3mg/kg/day、4日間)を点滴静注する。有効性は70~80%と報告されており、発作開始からできるだけ早期の投与がより有効とされている。
  3. ブドウ糖:ブドウ糖負荷はALAS1を抑制し、ポルフィリン前駆体を減少させ急性発作に有効である。ただ、ALAS1抑制作用は弱いため、ブドウ糖負荷単独で治療可能な場合は軽症発作に限られる。中等症以上の発作治療にはヘミン製剤が必要であり、ブドウ糖はヘミン製剤と併用して投与する。文献的にはブドウ糖300~500g/日の投与が必要とされているが、末梢からの輸液では困難であり、中心静脈投与以外の投与では可能な限り多量の投与を行うことになる。
  4. シメチジン:CYPs阻害作用を介して、ALAS1を抑制すると考えられている。
  5. 対症療法

○予防

  1. ヘム持続投与:ヘミン製剤を急性発作発症予防のために使用する場合がある。急性発作が起きていない期間に1~2週間に1回ヘミン製剤を投与する方法で有効性が示唆されている。発作回数が多く、不規則に起きる症例で適した方法である。長期間継続すると静脈炎や鉄過剰の問題がある。
  2. ギボシランはRNA干渉を利用して肝臓でALAS1のmRNAを選択的に切断、分解することによりALAS1の発現を抑制し、ポルフィリン中間代謝産物であるδ-アミノレブリン酸(ALA)、ポルフォビリノーゲン(PBG)を低下させる。現在の治療の中では急性発作予防には最も有効と考えられる。2.5mg/kgを月1回皮下投与する。
  3. 肝臓移植:治癒が期待できる唯一の効果的治療法。頻回に急性発作を繰り返す重篤な患者でしか行われていない。
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この記事を書いた人

大学病院で脳神経内科医をしています。
内科専門医・神経内科専門医を取得しました。
学生・研修医・専門医までを広く対象とした、内科・神経内科領域のまとめノートを作ります。学習や診療にお役立てください。

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