誘発電位総論

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用語・分類

誘発電位(evoked potentials)

感覚受容器・神経系に対する生理的または非生理的な刺激により誘発され、その刺激と時間的関連または事象的関連のある電気反応または波形。

大脳誘発電位(cerebral evoked potentials)

末梢感覚神経を刺激することにより、感覚経路のうち1次感覚受容野までの機能を検査できる。

誘発電位は脳波の振幅に比べて非常に小さいが、信号加算平均法を用いることで記録できる。

  • 視覚誘発電位(VEP:visual evoked potentials):パターン反転刺激
  • 体性感覚誘発電位(SEP:somatosensory evoked potentials):末梢神経電気刺激
  • 聴覚脳幹誘発電位(BAEP:brainstem auditory evoked potentials):クリック音刺激
運動誘発電位(MEP:motor evoked potentials)

大脳皮質運動野を頭皮上から磁気刺激して、被検筋の筋電図を記録する。錐体路の機能検査として使用する。

検査室の条件

被検者にとってできるだけ生理的に自然な条件で記録できるようにする。

室温・換気・湿度・照明・室内の広さ・防音・無響・暗室・光量調整など。

記録

刺激

閾値(threshold)

刺激の強さがある一定のレベル以上に達しないと記録できない。誘発電位の振幅は、刺激強度の増加とともに上昇し、波形もより明瞭になる。背景雑音から誘発電位波形を肉眼的に判別するのに必要な最小刺激強度を閾値(threshold)という。

刺激強度(stimulus intensity)

光:輝度(luminance, 単位 cd/m2)

音:音圧レベル(sound pressure level, 単位 dB)

電気刺激:電圧(V)・電流(mA)

磁気刺激:テスラ(T)

刺激パラメータ

刺激部位・刺激強度・刺激頻度・刺激持続時間・刺激間隔

電極

記録電極の入力を入力端子1(G1)・基準電極の入力を入力端子2(G2)に入れて、その差分を測定する。

皮膚・頭皮の表面に接着固定する電極で、導出(誘導)電極と呼ばれる。

脳波用の皿状円盤型銀電極を用いる。

事前に、電極固定部位をアルコール綿(可能であればアセトン綿)とスキンピュアで十分に拭いて、脂成分を取り除く。

電極ペーストを用いて電極を皮膚に接着し、テープを用いて固定する。

電極間抵抗は5kΩ以下にする。これ以上になると交流アーチファクトが混入しやすくなる。

導出電極以外に、接地電極を装着する。交流障害やアーチファクト除去に重要。

誘発電位の読み方

波形パラメータ

極性(polarity)

波形の極性はG1とG2に入力された電位の差分であるため、相対的極性である。

脳波と同じく、上向きの振れを陰性、下向きの振れを陽性とするのが一般的。

BAEPは慣習的に上向きの振れが陽性。

潜時(latency)

頂点潜時(peak latency):刺激開始時点を基準に基線から明らかに突出する波形の頂点までの時間

振幅(amplitude)

波の大きさを表す指標。

潜時に比べて個体間での変動が大きく、正常範囲の設定や異常値の判定には工夫を要する。

頂点振幅は基線から頂点までの大きさ。

波形の命名

SEP・VEP・ERP

誘発電位の波形は、頂点の極性と平均潜時によって表現される。

頂点の極性が陽性ならP(positive)、陰性ならN(negative)とする。

健常人における波形の平均潜時をアラビア数字で極性に併記する。

例)SEPのN20は、陰性頂点で平均潜時が20msである。

BAEP

慣習的にⅠ波・Ⅲ波・Ⅴ波などとローマ数字で呼ばれている。

MEP

複合筋活動電位の立ち上がり潜時を測定するため、上記の命名法は適用しない。

トラブルシューティング

うまく記録できない理由の多くは人為的なもの。

  • 接地電極・記録電極が外れている・浮いている
  • 電極の抵抗が5kΩ以上
  • 記録電極の左右間違い
  • 被検者が動いている
  • 被検者が寝ている(VEP・ERP)
  • 刺激電極がずれている(SEP)

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この記事を書いた人

大学病院で脳神経内科医をしています。
内科専門医・神経内科専門医を取得しました。
ネット上で気軽にアクセスできるような、内科・神経内科領域のまとめノートを作りたいと思っております。

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